メンタルヘルスにおける「依存(アディクション)」は、不安やうつなどの障害を引き起こす要因になったり、悪化させたりすることがあります。現代は依存も多様化しており、自覚がないままいつの間にか依存状態になっていることもあります。今回のコラムから、依存のメカニズムや種類、治療法などについてシリーズでお届けします。
「嫌なことから逃れたい」のは本能
依存についてご説明する前に、まず人間の脳について知っておく必要があります。脳の特性などを知っておくと、より依存との関係が分かりやすくなると思います。人間の脳が持つ最も重要な機能はサバイバル―どんな困難な状況にあったとしても生き抜くことです。そのため、元来、人間は嫌なことよりも楽しいことを求めてしまいます。これは原始の時代から人類が生きるために作ってきた脳の仕組みです。つまり、脳にとって不快なことが起きた時、たとえ一時的だったとしても、その不快さから逃れたいというのは、逃げでも怠惰でもなく、人間の本能なのです。
脳が心地よさを感じるには
現代における不快なことといえば「仕事がつらい」「お金がなくて困っている」「夫婦間がうまくいかない」「ダメな自分が嫌い」など、例を挙げればキリがありません。どんなことでも、あなたが嫌だと思うこと、ストレスを感じることは全て、あなたの脳にとって大変不快なものです。
しかし、脳にも防御策が備わっています。痛みや不安、恐怖といった刺激を受けると、それを和らげようと神経伝達物質を出す働きを持っているのです。代表的なものとして「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」などがあり、ドーパミンは達成感をもたらし、ノルアドレナリンはストレスに対抗し、セロトニンはドーパミンとノルアドレナリンをコントロールしてバランスを保ちます。このような快楽神経伝達物質は、運動をしたり、好きな音楽を聴いたり、日光浴をしたり、動物と触れ合ったりすることで分泌されます。
なぜ人は依存するのか
脳の特性が分かったところで、ここからは脳と依存の関係についてお話します。脳からも快楽を促すさまざまな神経伝達物質が出ているのに、なぜ人は薬物やタバコ、アルコールなどに依存してしまうのでしょうか。それは、薬物などが出す快楽が、神経伝達物質のそれよりもはるかに強力だからです。また脳が作り出す物質には限りがありますが、タバコやアルコールなどはいつでも簡単に無限に使用できます。特に、薬物は脳の限界を超えた神経伝達物質量を作ることができます(例:過剰なドーパミン)。さらに、神経伝達物質を過剰なまでに刺激したり、その反対に過剰に抑制したりするので、一層やっかいです。一度脳がそれを覚えてしまうと忘れることはなかなかできません。不安や恐怖が喜びに変わる(Fear to Pleasure)のですから、脳にとっては最高の報酬です。その感覚を手に入れようとし、いつの間にか依存してしまうようになります。
依存は病気である
脳が覚えてしまった快楽は、根性や努力ではどうにもなりません。例えば、アルコール依存症の人は、脳がハイになるその瞬間が忘れられずに、断酒してもたった一度の飲酒で簡単に再び依存症になることもあります。これは治療の話にもつながりますが、「頑張ればできる」「甘えがあるから克服できない」といった考え方を持っていると、余計に自分を責めてしまうことになります。依存とは、れっきとした病気であることを知りましょう。
次回は、依存症の中でも、深刻な「薬物依存」についてご説明いたします。
依存症に関する問題を抱えている場合は、一人で苦しまずに、心理カウンセリングやセラピーを受けてもよいと思います。