当クリニックには、子育てや親子関係に悩む親御さんがご相談にいらっしゃることがとても多いです。相談の内容はさまざまですが、前提として子育てには正解はありません。まずは、どんな状況や状態であっても、自分を責めてしまう時でも、「私はベストな選択をして行動している」と自分に言ってあげましょう。
その上で、「人間の脳神経の発達や機能、特徴を知ることで、人間の心理面を理解する」ということを分かっておくと、少し安心できるようになると思います。なんだか難しそうに聞こえますが、簡単に言うと「子どもの発達」と「コミュニケーション」のことです。
今回のコラムでは「子どもの発達」についてご説明します。
年齢に応じた子どもの発達
ここで、少し人間の脳についてお話ししましょう。脳は、人間が安心して生きるため個人を自然にコントールできる仕組みを作ってくれているものです。詳細は割愛しますが、脳には感情と理性を扱う部分があり、これらによって人は自分だけでなく、周囲の人やその他の人たちと共存し、安心や安全を確保できるのです。これが社会性です。
以下は、脳の役割を踏まえた上で、子どもの発達について説明しています。専門用語も出てきますが、脳と年齢に沿った子どもの発達度合いの関連性が分かると思います。
0~3歳まで
右脳と大脳辺縁系を使って、主に親からのメッセージや行動、感情などから「安心感」や「信頼関係」を学びます。この信頼関係を作ることをアタッチメント(愛着)と呼びます。アタッチメントにより、赤ちゃんが不安などのネガティブな感情を持った時に、落ち着かせてくれる親などの存在を真似することによって、自分も落ち着くことを体で覚えます。この潜在意識レベルでの記憶は体や脳の中に残っています。
2歳頃から
前頭葉が発達していく経緯で、自我も発達します。親や家族からその社会や文化の基準を学び始め、それにそぐわない行動は「恥」「罪悪感」などの感情で抑制することを学びます。
5歳前後
家族間で培われてきた信頼関係、自我の発達、感情や行動の抑制などが、さらに幼稚園や学校などの広い社会で試される時期です。ここでの体験も、主に右脳による感情につながる隠された記憶に蓄積されます。ここで重要なのは、子どもが親と一緒に「自己尊厳」を学ぶ、そして他人のことを慮る感情や考えを発達させることです。
5~6歳以降
急激に右脳や左脳をつなげる神経などが発達し始め、体の運動機能、物事の具体性(抽象的な考えはまだない)を理解する認知力が上がります。感情面での重要なことは、親や先生、周囲の大人などのサポートを受けながら、自分で物事を解決することを学ぶこと。これはコミュニケーション能力を高めて、考える部分と感情の部分の脳をつなげることが最も重要になってきます。
12歳ぐらいまで
ある程度自分や他人に対する概念や観念が決まり、ほぼ自動的に日常生活の中の出来事に対して反応したり行動したりしています。自分の感情に関しての表現やコントロールも決まってきます。また、社会や文化の流れの中で、さらに左脳を使う教育に重きが置かれがちになり、よりストレスの多い環境にさらされます。
ポイント
潜在意識に送られるメッセージは、8歳ぐらいまでは良くも悪くも全て受け取ってしまいます。例えば親が「言うことを聞かない子だね」と言うと、子どもは「自分は言うことを聞かない子ども」と受け取り、さらには恥や罪悪感の感情を持ちながら「言うことを聞かない、悪い子」と自分のことを決めつけてしまいます。
上記のような脳の発達や機能、特徴を、子どもの心理面を理解する方法の一つとして、ぜひ知っておきましょう。
現実はどうやって生まれるのか
ここまで脳や子どもの発達についてご説明してきましたが、これらは人が生み出す「現実」にも大きく関わっています。人間は「出来事やイベント」が起こった時に、それを脳の中で「情報の振り分け」をし、「記憶」し「意味付け(観念)」します。これが「現実」を作り出す過程です。そして、この過程の基盤となる考え方は、人によって全く違います。親などの影響や環境、教育などによって、脳や自我の発達は大きく変わるのですから、当然と言えるでしょう。つまり、「人それぞれ、見ている現実は違うということです。さらに言えば、それぞれ感情や行動なども変わり、その結果も変わってきます。同じ景色を見たり、同じ状況にいたりしても、自分と他人、たとえきょうだいや友人であっても受け取り方や感じ方が違うのは、皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか。
人とつながるコミュニケーションの重要性
このように、それぞれが全く異なる現実を見ている中、人はどのようにつながっていけばよいのでしょうか。それには「コミュニケーション」がポイントとなります。子どもにとっても大人にとっても、このコミュニケーションが人をつなげていく大切な要素で、子育てや親子関係においても重要な鍵となっています。
次回は、「コミュニケーションの重要性」についてご説明いたします。